• 敬称略・順不同
  • シネマズby松竹 テレビや演劇界で活躍してきた大木一史監督が制作・監督・脚本をつとめる作品。東京・鶯谷を舞台に死者と生者が交錯するシュールでミステリアスな世界を描く。http://cinema.ne.jp/news/uguisudani2016042506/
  • 大久保隆さん(建築家) まず、沢山の対比が出現するストーリーと思いました。現実と虚構、自己と他者、生きると殺す、生きると演じる、自己と家族、男と女、考えると話す、赤と黒(ハイヒールとブーツ、バッグとキャリー)、持つと引く(バッグとキャリー)、開くと閉じる(シャッター、エレベーター)、上ると降りる(階段、エレベーター)、走りと自転車、谷と山(屋上、歩道橋)、個人と社会、市民と警察、メッセージの発信と拒否(ビラ配り)、などなど。数えきれないほどの対比が見受けられました。そして、それぞれの対比が重なる瞬間と、時とともに経過していく流れとが複雑にかみ合っていく物語。そしてドラムの鼓動による転換。興味深い構成ですね。また、古い建物のもつ乱雑な階段、わずかな隙間しかないシャッターは、現実と虚構の狭間を、空間と時間を切りとって、自己と他者、現実と虚構を区切る仕掛けとなっているのが大変おもしろかったです。(もっとも、撮影現場と建物をじっくりと見させていただいた経験が大きく影響しているかもしれませんが)そう見ていくと、そうしたいくつか「結界」を自由に行き交い、男の周辺を出たり入ったりする、まるでトリックスターのような若き女を、もっと目立ち引きたてても良かったような気がします。例えれば、ピーターパンに対するティンカーベルのように。(すみません、勝手を言いました)いずれにせよ、60年代への追想を感じさせる作品なので、若者にすんなりと受け入れられるかは別ですが、我々の世代には懐かしい心象風景でした。
  • シネフィル 今作は、演劇と映画を、また不条理劇とラヴストーリーを融合させた野心作である。今後も初期のゴダールやジャ・ジャンクーを彷彿とさせる瑞々しい作風が期待されている。http://cinefil.tokyo/_ct/16956632
  • 相田邦騎さん(歌人) 映画【鶯谷奇譚 UGUISUDANI 】昨日、大木一史監督の映画「鶯谷奇譚 UGUISUDANI 」を観た。ネタばれにならない程度に語るが、この映画は、まさに鶯谷を舞台とした「奇譚」であり、正岡子規の亡霊に覆われている。小説に譬えると、平成版・泉鏡花という印象を受けた(主人公に母性回帰が視える)。主演の福田英和、山内志織。共に好演である。ゴダールに傾倒した大木監督だけに、ゴダールに似た前衛性や実験性がある。それでいて、決してアカデミズムに凝り固まった難解さは無い。説明性は、かなり排除されている。観客に向けての強力なメッセージ性は、中野英世撮影監督を中心とした素晴らしいカメラ・ワークが代弁している(これには眼を瞠った)。大木監督にとっては、こう語ると本意ではないかもしれないが、60年代の大島渚の『新宿泥棒日記』や『無理心中・日本の夏』などを彷彿とさせる懐かしさがある。それでいて、物語の中に織り込まれている音楽シーンなど、平成の時代感覚もあり、懐古趣味では勿論なく、「今の時代」の映画である。「あいつは虫けらだ」「俺って虫けらかな…」など、頻出する「虫けら」というキーワードにも現されているが、「絶望の平成」を巧みに捉えている。お世辞抜きで傑作です。